merica Votes 2008 アメリカ大統領選挙ウォッチャー記~その26ふたつの未来(大統領候補討論会 第3回 ニューヨーク州)
自分の体調がすぐれない時に、これまた大いにすぐれない状況のニュースをチェックしているのはとてもしんどいものです。
先週の私はキリキリ痛む胃を抱えながら、世界金融危機関連のニュースを見守っていたのですが、乱高下する株式市場に悪酔いしてしまいそうでした。
(特に東京市場のうろたえぶりは日本人として赤面ものです。動揺を鎮めるためになんら対策も打ち出せない政府も政府なら、いちいち海外市場の動向に2倍3倍も過剰に反応して、自分の頭で考えようとしない投資家も投資家なんですが。でももっといけないのは、ここ15年以上も続くあまりの「不況感」に慣れきってしまっていて、考える気力もなく「ああまたか」とただただ呆れかえっている国民の状態もどうかと思います。)
そんな1週間の中でも、やはり飛び抜けて目を引いたのはヨーロッパの対処の仕方だったかと思われます。
イギリスのゴードン・ブラウン首相がすでに8日の段階でイギリス政府による主な銀行への資本注入を決定、他国もこれに続いて欲しいと記者会見で訴えました。
当初混乱のため動きの鈍かったヨーロッパ諸国もそのイギリスの動きを受け、13日にもフランスのニコラ・サルコジ大統領がイギリス同様の金融機関への資本注入をフランスでも実施すると発表。
またフランスは今回のEU議長担当国として加盟27国をまとめ上げ、加盟国の協調行動として同様の政府介入をそれぞれの国が進める方向にもっていきます。
そしてEUを中心としたG7(プラスG20 )が、アメリカにも同様の資本注入を行うことをプレッシャーをかけます。
むろんアメリカは当初は抵抗しましたが(国民の理解が得られないだとか、資本主義の原理にもとるだとか、うだうだうだ)株価は乱高下しながらどんどん下がっていくばかりとあって、ついに14日金融安定化法案で用意された資金の中から2500億ドル(25兆円強)を使って9社の大手金融機関などへの資本注入(株式の取得)をすることを発表したのでした。
金融機関の破たん懸念に即刻対応したことで、巷ではブラウン首相の手腕を高く評価されているようですが、ブラウン首相の意図に反応したサルコジ大統領の連携ぶりも見事でした。
1国が倒れたらドミノ倒しで世界中に広がってゆく、だから何としても一刻でも早く食い止めなければならない、というこの危機の本質を見抜いていたという点で2人とも一致して政策にとりかかり、10月のあたまにはもう空中分解してしまうのではないかと思われたEU の大ピンチを救い、ひいては崖っぷちに立っていた世界金融をとりあえず崖から転げ落ちるのを救ったのです。
思えば、ブラウン首相(左派)とサルコジ大統領(右派)が同じ船に乗って絶妙に連携しているさまは非常に興味深いものでした。
本来だったら政治的立場が対極にあるような2人が同じ船に乗って、暗礁だらけの海の航海をしていくさまは、もはや政治イデオロギーだのなんだの言っていたような時代を遥か後方に置いてきたこと、新しい21世紀の本当の始まりを試されたのだと強く感じたものでした。
それはまったく新しい旅の始まり。
これまでの海図にない旅の始まりだったのではないでしょうか。
その同じ頃。
10月15日夜(現地時間)アメリカのニューヨーク州ホフストラ大学では、アメリカ大統領選挙のための大統領候補者討論会が行われました。
これは3回目で最後の討論会、というわけです。
ヨーロッパの劇的な展開に比べて、こちらはどういう新しい道筋を見せてくれることができるだろうか、それが私にとっては最大の興味のポイントでした。
討論会のテーマは「内政問題」
当然、前2回よりもこの金融危機について多く時間をとり、これを前提にどう各自の政策を立てて実行していくか、が焦点になるものと思われました。
ふたりの候補はそれぞれ、住宅差し押さえの90日間猶予(オバマ候補)とか不良債権化したローンの買い取りと新規ローンへの組み換え(マケイン候補)などといった新しい政策を打ち出してきていたのですが、どちらの政策もどちらが主張してもおかしくない感じで各自の差別化まではいかなくて、これは有権者にとってなかなか選び難いなと感じられるものでした。
従って、それぞれが差別化して「相手とは違う」と主張できる点はどうしても旧来からの「違い」を主張している点で、それは「税金」の設定の仕方の違い、ということになってしまっていたように思います。
すなわち、「減税」が前提で、特に富裕層に対する減税をやれば、それは経済活性化、消費活性化、雇用促進につながるとする、旧来の共和党的政策=レーガノミックスの焼き直し版をマケイン候補は掲げているのでした。
そして、「減税」すると国庫が歳入不足になってしまうために、その「減税」とセットになっているのは「歳出の制限」というわけで、いわゆる「小さい政府」論となるのですが、マケイン候補は政府歳出の全面凍結と見直しをするといいます。
ただし、同じくレーガノミックスで重要な柱となっているいわゆる「規制緩和」については、この金融危機が始まるまでは主張していたのですが、この危機の元凶とも言われているため、一切言及しないようになっていたのは当然でしょうか。
一方オバマ候補は、そのレーガノミックスを掲げて過去7年半を運営してきた現政権=ブッシュ政権が金融危機を呼び、経済も国民の生活もボロボロにしてしまったことを突き、それを立て直すためには「中産階級の復活」をさせなければならない、そのためには「減税」は低所得者と中所得者のために行い、富裕層に対しての減税を廃止する(つまり富裕層については現在より「増税」になる)ことで国庫の歳入を失わないようにする、という政策を打ち出しています。
ただ歳出については、見直しはするけれど必要なところには投資しなければならないとし、特に社会福祉や医療制度改革などの社会のセーフティ・ネット作りと次世代のための教育関連費を重視する政策も掲げています。これはいわゆる「大きい政府」論ともされているものです。
このふたつの立場がいわば真っ向から議論したディベートだった、ともいえます。
表向きには。
しかし、現実には、このふたつが対決した「ふたつの未来」は存在しなくなっています。
アメリカ合衆国にとっては。
アメリカはすでに大いにこじれてしまった3つの戦争を戦っていて、イラク戦争、アフガニスタン戦争、そしてテロとの戦争、の膨大な戦費と、肥大化したアメリカ軍の経費(復員軍人への補償費も含む)が必要となっており、アメリカ政府歳出に重くのしかかっています。
ついでに、これに加えて先月から「金融危機との戦争」も加わってしまい、いってみるなら「ウォール・ストリート軍の立て直し」とか「サブプライム戦争の復員破たんファミリーへの補償」とかをこれから実行していかなくてはならないのは明白です。
この戦争は実は前3つの戦いよりもはるかに厳しくやっかいですが、アメリカは国家として生き残るつもりがあるのなら、必ず避けて通ることができません。
いまや世界経済はグローバル化してつながってしまっているのですから、すでに世界じゅうを引きずりこんでしまっているアメリカが、戦わないで済ます方法はないのです。
もしこれを戦わないで下りてしまおうというのなら、そして本気で「小さい政府」を目指そうというのなら、まずアメリカ軍を解散して、大企業全部と手を切り、世界金融から撤退して、世界の基軸通貨であることをやめなければなりません。
ついでに、FRBの廃止、連邦政府を解散して、完全に州政府に権限移譲し、各州政府をそれぞれ独立国扱いにする。
ついでにもっと念を押すのならば、かつて日本の徳川幕府がやったように各州政府の判断で「鎖国」してしまえばもっと完璧でしょう。
つまり、アメリカ合衆国の解散。
これ以外に現代で「小さい政府」などというものが成立できるはずがないのです。
しかし、アメリカ合衆国の解散など、できるはずもない。
だからアメリカにとっては、もう選択肢は他に存在しないのです。
観念的なイデオロギー論や政治論なんぞを言っている場合ではない。
おそらく次期大統領が誰になろうともいずれ国庫の歳入不足を補うために増税することは免れないでしょうし、またどんなに充実した社会福祉政策を望もうとも、どこかで妥協して優先順位の低いものは諦めなければならないでしょう。
だから本当に必要なのは、自分のよって立つポリシーを声高に主張することでは全くなくて、より良い選択肢のために自分と違う立場の意見を取り入れることができるかが大切であり、対極の立場の人たちと同じ船に乗ることができることこそが必要とされていることなのです。
それを最重要に考えれば、誰を大統領にするのかは自ずから明白になることです。
そんな風に考えながら私はこの最後の討論会を見て、そして討論会後も各候補者たち(大統領候補たちだけでなく、副大統領候補たちも含めて)の言動をチェックしていたわけです。
そして失望を禁じえません。
アメリカはまだこんな程度の地点でとどまっているのか、と。
ヨーロッパはその間より緊密に結束し、立場の違いを越えた協調行動で市場の混乱を鎮める努力をし、各国政府が金融機関救済策を続々と打ち出しています。
アメリカでは、候補者の政策が社会主義だとか、ヨーロッパの政策が社会主義だとか、実にくだらない、時代錯誤な論戦を張っている間に。
もう一度冷戦時期に引き戻したいのか、と疑うような馬鹿な主張を声高にあげる者がいる間に。
そんな主張で国民を洗脳してしまえば、いよいよこれから金融危機が本当の意味で深く進行し、これまでよりももっと政府が関与しなければいよいよ国が破たんするという段階がきた時に、「それは社会主義だから嫌だ」と言い出す国民が必ず現れる。
それをどうやって説得するのか。
どうやって国の破たんを救うというのか。
ヨーロッパはついに「ブレトンウッズ体制」の見直しまで言い始め、いよいよ第二次大戦後から続いてきた国際通貨体制を仕切り直す時期がきたのだと感じられます。
サルコジ大統領のいわく
「我々は新しい資本主義を再構築する」
そういえばフランスはコアビタシオン(保守革新同居)を長く実行し、ミッテラン大統領にシラク首相、シラク大統領にジョスパン首相もあったっけ、と思い出します。
ならば、サルコジ大統領とブラウン首相の組み合わせだって、何も違和感なくお互い歩み寄れて当然です。
それだけヨーロッパは大人で、EU市民のために最善の道をいつだって捜そうという「心」がある。
その「心」こそがおそらく「信用」という絆に、今この金融危機のさなかに一番必要とされている「信用」というものになっていく。
それがどうしてアメリカでは成り立たないのだろう。
どうして気がつかれないのだろう。
最終討論会で最後に握手するオバマ、マケイン両候補を見ていて、これが大統領と副大統領だったら、どんなに良かっただろうか、と思えてしかたありませんでした。
しかし、アメリカにはその選択肢がありません。
少なくとも今のところは。
これがおそらく、今後のアメリカの「最大の弱点」になることと予感しながら、私は画面に見入っていたのでした。
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